DeNA Testing Blog

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Golden TestではじめるGoのAPI ServerのRegression Test

はじめに

昨年(2019年)の11月にSWETチームへJoinした伊藤(@akito0107)です。 SWETチームでは主にGoのサービスに対するテスト実装のサポートや品質向上の取り組みを行っています。

この記事では、GoのAPI ServerのRegression Testについて、その目的と低コストに始められるGolden Files を使ったテスト手法をサンプルのコードを交えながら紹介しようと思います。

API ServerのRegression Test

Goに限らず、サービスの成長に伴い常に変更が入るようなシステムだと、過去に実装したアーキテクチャが現在の仕様に適さなくなるといったケースも多くあると思います。 そういった場合、Refactoring、Rearchitectingなどを行い、より理想の形へソースコードやアーキテクチャを進化させていきます。その際に重要なのが、 過去の仕様と変更がないこと を保証するということで、Regression Test(あるいは回帰テスト)はこれを目的にしたテストです。

httpのAPI Serverにおける 仕様と変更がないこと の保証とは、極端に単純化して言うと同じhttp requestを同じ条件(時間・パラメータなど)で投げたときに、同じhttp responseが返ってくることを保証することです。 この記事では、この定義でRegression Testを扱って説明をしていこうと思います。

Golden Test

過去に実行したテストの結果をファイルに保存(= Golden Files)し、再度実行するときはそのファイルと同じ結果が返ってきているかどうかをチェックするテスト手法のことを Golden Test と呼びます1Advanced Testing with Goで紹介されていますが、簡単に動きを見てみましょう。 以下の擬似コードを見てください。

var update = flag.Bool("update", false, "update golden files")

func TestDoSomething(t *testing.T) {
  // Test対象の関数をCallする
  result := DoSomething()
  golden := filepath.Join("/path/to/testdata/", t.Name() + ".golden")

  // update flagが指定されていた場合はfileを書き出す
  if *update {
    ioutil.WriteFile(golden, result, 0644)
  }

  // golden fileを読み込む
  expected, _ := ioutil.ReadFile(golden)
 
  // 変更がないかをチェックする
  if bytes.Equal(result, expected) {
    t.Errorf("golden file not matched")
  }
}

このテストでは、 DoSomething() のチェックを行っています。 DoSomething()からの返り値をそのままファイルに書き出し、 bytes.Equalを使ってファイルの値と実行した値が同じかどうかを比較しています。 暗黙的にDoSomething()の返り値が[]byteであることを想定しているのに注意してください。

ポイントとしては、 -update フラグを設定した際に、書き出したGolden Filesをupdateするというところです。 もちろんAPIに仕様変更があった際にはoutputが変わるのは当たり前なので、この-updateフラグのようなGolden Filesのメンテナンスを容易にする仕組みを取り入れましょう。

今回はgoldieというライブラリを使って Golden Testを行っていこうと思います。-updateフラグでGolden Filesをupdateする仕組みなどは上記のコードと変わりませんが、jsonでの比較やdiffが出た際のvisualizeなどが作り込まれていて、便利に使うことができます。

Golden Filesを使ったAPIのRegression Test

では、goldieを使ってRegression Testを書いて行きましょう。

Goldieの使い方

goldieの使い方を簡単に見てみます。 なお、goldieはv2.2を使います。 v1とv2ではAPIが違うので注意してください。

go getを使ってinstallします。この際にv2を指定します。

$ go get github.com/sebdah/goldie/v2

実際にgoldieを使う際にはNewで初期化したあとに、Assertを呼ぶだけです。 試しに上のコードをgoldieを使った形に直してみましょう。

func TestDoSomething(t *testing.T) {
    result := DoSomething()

    // goldieを初期化
    g := goldie.New(t)

    // Golden Fileとの比較
    g.Assert(t, t.Name(), result)
}

goldie自体でupdateフラグによるGolden Fileのメンテナンスなどをサポートしてくれます。

また、Golden Fileと比較するAssertという関数は3種類あり、ユースケースに応じて呼び分ける必要があります。上の例で使ったAssert[]byte同士を比較します。ほかにも、JSON同士を比較できるAssertJsonや、Templateを使って実行時に動的に値を書き換えられるAssertWithTemplateがあります。

goldieではデフォルトで、testdata配下にGolden Fileが保存されます。このPathを書き換えたいときは、WithFixtureDirのOptioinをNewに渡します。

   g := goldie.New(t, goldie.WithFixtureDir("./testadata/golden"))

このケースだと./testdata/golden配下にファイルが保存されます。

それ以外にも多くのオプションがあるので、GoDocを参照してみてください。

API ServerでのExample

では、goldieを使ってAPI ServerのRegression Testを書いていきます。

下記のようなHandlerを持つAPIを想定してテストを書きます(error handlingなどのコードは一部省略しています)。 emailnameの値を受け取り、DBに保存するというユースケースのAPIです。

// User定義のstruct
// ID / CreatedAtはDBにより自動でセットされる想定
type UserJSON struct {
    ID        int       `json:"id" db:"id"`
    Name      string    `json:"name" db:"name"`
    Email     string    `json:"email" db:"email"`
    CreatedAt time.Time `json:"created_at" db:"created_at"`
}

type ErrorResponse struct {
    Message string `json:"message"`
}

// Error用関数
func writeError(w http.ResponseWriter, message string) {
    w.WriteHeader(http.StatusInternalServerError)
    json.NewEncoder(w).Encode(&ErrorResponse{Message: message})
}

func postUser(db *sqlx.DB) http.HandlerFunc {
    return func(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
        // JSONのbinding
        var body UserJSON
        if err := json.NewDecoder(r.Body).Decode(&body); err != nil {
            writeError(w, "json decode failed")
            return
        }

        // DBへInsert
        ctx := r.Context()
        rs, err := db.ExecContext(ctx, "INSERT INTO users(name, email) VALUES (?, ?)", body.Name, body.Email)
        if err != nil {
            writeError(w, "insert user failed")
            return
        }

        // IDはAuto IncrementでAuto Generateされるので、その値を取得してくる
        id, err := rs.LastInsertId()
        if err != nil {
            writeError(w, "last insert id failed")
            return
        }

        // Response用にDataを取得する
        var user UserJSON
        if err := db.GetContext(ctx, &user, "SELECT * from users where id = ?", id); err != nil {
            writeError(w, "get user failed")
            return
        }

        // Responseを返す
        w.WriteHeader(http.StatusCreated)
        if err := json.NewEncoder(w).Encode(&UserJSON{
            ID:        user.ID,
            Name:      user.Name,
            Email:     user.Email,
            CreatedAt: user.CreatedAt,
        }); err != nil {
            writeError(w, "json encode failed")
            return
        }
    }
}

http.HandlerFunc を直接定義するのではなく、 http.HandlerFunc を返す関数として定義しています。このコードの例のように、 db 等の依存モジュールを外部から受け取れるようにするためです。このメリットは後にテストコードを書くときに体感できると思います。

main.go ではこの handler を下記のようにして読み込んでいます。

func main() {
    db := sqlx.MustConnect("mysql", "root:passw0rd@tcp(localhost:3306)/e2e_example?parseTime=true")
    defer db.Close()

    handler := postUser(db)

    if err := http.ListenAndServe(":8080", handler); err != nil {
        log.Fatal(err)
    }
}

今回はhandlerが1つなので、特にrouterのライブラリなどは使っていません。

この postUser ハンドラに対してテストを書いていきます。 テストとしては以下のような流れになります。

  1. APIにhttp requestを投げ、responseをGolden Filesとして保存
  2. テスト実行の2回目以降はresponseがGolden Filesと差分が無いかを確かめる
func TestPostUser(t *testing.T) {
    db := sqlx.MustConnect("mysql", "root:passw0rd@tcp(localhost:3306)/e2e_example?parseTime=true")

    t.Cleanup(func() {
        // Go1.14から導入された関数
        // DBにinsertしたdataのcleanupを行う。 キー制約を削除し、truncateする
        db.MustExec("set foreign_key_checks = 0")
        db.MustExec("truncate table users")
        db.MustExec("set foreign_key_checks = 1")
        db.Close()
    })

    var buf bytes.Buffer
    if err := json.NewEncoder(&buf).Encode(&UserJSON{
        Name:  "test",
        Email: "test@dena.com",
    }); err != nil {
        t.Fatal(err)
    }

    // httptestによりRequestとResponseRecorderを作成する
    req := httptest.NewRequest(http.MethodPost, "/", &buf)
    rec := httptest.NewRecorder()

    // http requestをsimulateする。 `rec` にResponseが書き込まれる。
    postUser(db).ServeHTTP(rec, req)

    if rec.Code != http.StatusCreated {
        t.Fatalf("status code must be %d but %d", http.StatusCreated, rec.Code)
    }

    // Response BodyのJSONをDecodeする
    var user UserJSON
    if err := json.NewDecoder(rec.Body).Decode(&user); err != nil {
        t.Fatalf("json Decode failed: %v", err)
    }

    // goldieの初期化
    g := goldie.New(t)

    // Golden Fileとの比較を行う
    g.AssertJson(t, t.Name(), user)
}

httptest を使ったシンプルな構成ですが、handlerの中でdbにつなげているので、dbをテストの中でもopenし、handlerに渡しています。

テストの後半にgoldieでAPIのresponseのJSONを比較しています。JSONの比較なので、AssertJsonを使っています。

このテストを動かしてみましょう。(DBはlocalhost:3306でlistenしている前提です) すると、下記のように出力されるはずです。

$ go test .
--- FAIL: TestPostUser (0.03s)
    e2e_test.go:42: Golden fixture not found. Try running with -update flag.
FAIL
FAIL    github.com/DeNA/apiexample  0.085s
FAIL

fixtureがないというメッセージでFailします。メッセージの通り、-updateをつけてテストを実行してみましょう。

$ go test . -update
ok      github.com/DeNA/apiexample  0.091s

今度は成功しました。また、testdataというディレクトリが作成されていることに気づくと思います。中に、TestPostUser.goldenというファイル作成されています。このTestPostUserというファイル名は今回実装したテストの関数名と同じでしたね。 goldie.AssertJSONの第2引数で渡しているt.Name()TestPostUserなので、第2引数で渡した文字列の名前のファイルが出来ていることが分かると思います。

.
├── go.mod
├── go.sum
├── main.go
├── main_test.go
└── testdata
    └── TestPostUser.golden

TestPostUser.golden のファイルの中を見てみましょう

$ cat testdata/TestPostUser.golden
{
  "id": 1,
  "name": "test",
  "email": "test@dena.com",
  "created_at": "2020-03-06T03:50:31Z"
}

APIのresponseのjsonがそのまま保存されています。

この状態で、もう一度go testを実行してみましょう。

$ go test .
--- FAIL: TestPostUser (0.03s)
    e2e_test.go:42: Result did not match the golden fixture. Diff is below:

        --- Expected
        +++ Actual
        @@ -4,3 +4,3 @@
           "email": "test@dena.com",
        -  "created_at": "2020-03-06T03:50:31Z"
        +  "created_at": "2020-03-06T03:54:04Z"
         }

FAIL
FAIL    github.com/DeNA/apiexample  0.089s
FAIL

テストがFailしてしまいましたが、なぜFailしたのかの差分ををわかりやすい形式で表示してくれるのが、goldie を使う利点です。

created_at はDBへinsertするときにMySQLのCURRENT_TIMESTAMPで設定しているため、実行時の時間が挿入されます。そのため、実行ごとに値が異なってしまうため、API Responseの値に差分がでてしまいました。

実行時に値が変わる時の対処法

今回のcreated_atに変更があったケースですが、テストがFailしていることが間違っている状態、つまり偽陽性のあるテスト、となってしまっています。特に時間や、Auto GeneretedされるIDなどの値は実行時に変更されるため、Golden Testsで扱うのが難しい部類となります。ここでは、これに対応するパターンをいくつか考えていこうと思います。

外部からTimestampを取得できるようにする

DBの current_timestamp を使わずに、アプリケーション上でタイムスタンプを取得し、INSERT時に渡すように書き換え、その上でテストコードからタイムスタンプを取得するロジックを操作できるようにします。 dbと同じように関数の引数でタイムスタンプを取得する関数を渡すか、 プログラミング言語Go2 11.2.3ホワイトボックステストで触れられているような、関数をpackage scopeの変数として定義しテスト時に置き換えるような方法を取るかの2パターンが考えられます。 ここでは後者の方を採用し、実装してみたいと思います。

handlerを以下のように書き換えます。

+var now = func() time.Time {
+       return time.Now()
+}
+
 func postUser(db *sqlx.DB) http.HandlerFunc {
        return func(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
                if err := json.NewDecoder(r.Body).Decode(&body); err != nil {
                    writeError(w, "json decode failed")   
                    return 
                }

                ctx := r.Context()
-               rs, err := db.ExecContext(ctx, "INSERT INTO users(name, email) VALUES (?, ?)", body.Name, body.Email)
+               rs, err := db.ExecContext(ctx, "INSERT INTO users(name, email, created_at) VALUES (?, ?, ?)", body.Name, body.Email, now())

 ~省略~ 

nowという変数を定義し、INSERT時にその関数を使うようにします。 Testは以下のように修正します。

 func TestPostUser(t *testing.T) {
        db := sqlx.MustConnect("mysql", "root:passw0rd@tcp(localhost:3306)/e2e_example?parseTime=true")

+       saved := now
+       now = func() time.Time {
+               n, _ := time.Parse(time.RFC3339,"2020-03-03T15:04:05Z")
+               return n
+       }
+
        t.Cleanup(func() {
                db.MustExec("set foreign_key_checks = 0")
                db.MustExec("truncate table users")
                db.MustExec("set foreign_key_checks = 1")
                db.Close()
+
+               now = saved
        })

       ~省略~

テストの関数の中でnowを上書きし、任意の固定の時間を返すようにします。そのうえで、テストを何回か実行してみてください。固定の時間が使われるようになったため、テストが安定して動くようなりました。 t.Cleanup もしくは、deferなどで、テスト実行時に元の関数に値を戻すことを忘れないでください。もしその関数が他のテストに依存していた場合、値が食い違ってしまいます。

このパターンは時間など、実行時に依存する値をコントロールする汎用的なものです。もしAPI Server以外でも同じ様なケースで困ったら採用してみる価値はあるかもしれません。

Http Headerで時間を操作できるようにする

httpのAPI Serverに特化したパターンも考えてみましょう。httpのmiddlewareで時間を設定し、handlerの内部ではその値を使うようなパターンを実装してみます。

以下の様なmiddlewareを実装しましょう。 

const requestTimeHeaderKey = "X-Request-Time"
type requestTimeCtxKey struct{}

func requestTimeMiddleware(next http.HandlerFunc) http.HandlerFunc{
    return func(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
        now := time.Now()

        t := r.Header.Get(requestTimeHeaderKey)

        if t != "" {
            if n, err := time.Parse(time.RFC3339, t); err != nil {
                now = n
            }
        }

        ctx := context.WithValue(r.Context(), requestTimeCtxKey{}, now)
        r = r.WithContext(ctx)
        next(w, r)
    }
}

X-Request-Timeのhttpのrequest headerがあったら、その値をcontextにセットし、なければ、time.Nowを使います。

handlercontextからの値を使うように修正してみましょう。

func postUser(db *sqlx.DB) http.HandlerFunc {
                if err := json.NewDecoder(r.Body).Decode(&body); err != nil {
                    writeError(w, "json decode failed")   
                    return 
                }

                ctx := r.Context()
-               rs, err := db.ExecContext(ctx, "INSERT INTO users(name, email) VALUES (?, ?)", body.Name, body.Email)
+               now := ctx.Value(requestTimeCtxKey{}).(time.Time)
+               rs, err := db.ExecContext(ctx, "INSERT INTO users(name, email, created_at) VALUES (?, ?, ?)", body.Name, body.Email, now)

        ........

テスト側ではmiddlewareでhandlerをwrapし、headerをセットしましょう。

~省略~
+       req := httptest.NewRequest(http.MethodPost, "/", &buf)
+       req.Header.Add(requestTimeHeaderKey, "2020-03-03T15:04:05Z")
        rec := httptest.NewRecorder()

-       postUser(db).ServeHTTP(rec, req)
+       requestTimeMiddleware(postUser(db)).ServeHTTP(rec, req)
~省略~

これでテストを実行してみましょう。Failになることはなくなったと思います。 headerをセットする方法は外部から時間を操作できてしまい、意図しないリクエストを発行される恐れがあるので、テストでのみ有効になるように、build tagなどを使って調整することをおすすめします。

zero値に置き換える

上記2つの方法はアプリケーションコードに手を加える方法でした。ここでは、テストの方に修正を加えて、実行時に値が変わる項目に対応していきたいと思います。

goldieへわたす前に、値をzero値、もしくは固定値に書き換えてしまえばテストは安定します。

        ........
        g := goldie.New(t)
        var user UserJSON
        json.NewDecoder(rec.Body).Decode(&user)
+       user.CreatedAt = time.Time{}
        g.AssertJson(t, t.Name(), user)
 }

非常に乱暴なやり方ですが、今回のようにテスト時に無視できるとわかっている値がある場合には最もコストが少ない方法です(とはいえ、乱用してはテストの意味がなくなってしまうので注意深く使いましょう)。

reflectパッケージを使って、以下のような helper を実装しても良いと思います。

func ignoreField(t *testing.T, i interface{}, fieldNames ...string) {
    t.Helper()

    if reflect.TypeOf(i).Kind() != reflect.Ptr {
        t.Fatalf("given type %T is not a pointer type", i)
    }

    iv := reflect.Indirect(reflect.ValueOf(i)).Interface()
    v := reflect.ValueOf(i)
    tp := reflect.TypeOf(iv)

    if tp.Kind() != reflect.Struct {
        t.Fatalf("given type %T is not a struct type", tp)
    }

    for j := 0; j < tp.NumField(); j++ {
        f := tp.Field(j)
        if !contains(f.Name, fieldNames) {
            continue
        }

        v.Elem().Field(j).Set(reflect.Zero(f.Type))
    }
}
func contains(s string, arr []string) bool {
    for _, ar := range arr {
        if s == ar {
            return true
        }
    }
    return false
}

このignoreField helperは、引数で渡されたstructから、同じく引数で指定されたプロパティ名の値をゼロ値に置き換えます。今回のケースだと、

        ......
        g := goldie.New(t)
        var user UserJSON
        json.NewDecoder(rec.Body).Decode(&user)
        ignoreFields(t, &user, "CreatedAt")
        g.AssertJson(t, t.Name(), user)
}

このように使います。NestedなStructなど、もう少し複雑なケースではまた対応が必要ですが、それに応じたhelperなどを用意しても良いかもしれません。

注意事項

Golden Testとgoldieの使い方を見てきましたが、大変便利である反面、テストとして有効な範囲は限られます。Golden Testで確かめられるのは、以前の結果と変更がないことだけです。 Responseは同じでも、中身のロジックが変わってしまったケースなどはこのテストでは検知できません。

また、出力されたGolden Fileが正しい結果なのかどうかも、テスト自体では確かめることはできません。Golden Fileを出力したら、確実にその結果が正しいのかどうかをチェックするようにしましょう。

加えて、-update を渡すと、全てのGolden Filesが更新されてしまいます。-updateを実行する際には、go testにオプションで実行対象のテストを絞り込み、慎重にupdateを行いましょう。

まとめ

GoのAPI ServerのRegression Testと、それを低コストに始められるGolden Test、そのライブラリであるgoldieについて説明をしました。 Golden Testは簡単に始められますが、実行するたびに値が変わるパターンやGolden Fileの扱いなど、慎重に扱う必要がある場面も多々あります。 使い所は限定されますが、効果的なRegression Testを実現するためにぜひ導入を検討してみてください。


  1. Snapshot Testingと呼ぶTesting Frameworkもあります

  2. アラン・ドノバン、ブライアン・カーニハン著 柴田 芳樹訳『プログラミング言語Go』丸善出版株式会社

仕様記述テクニック「Promotion」の紹介

こんにちは、SWETの鈴木穂高(@hoddy3190)です。

私はこちらの記事に記載の通り、形式手法の可能性を模索しています。 現在はツールやゲームの仕様を形式的に記述すること(形式仕様記述)で、仕様の欠陥をなるべく早く見つける取り組みにチャレンジしています。 今回は仕様記述をするにあたりよく使う重要な記述テクニックである「Promotion」を紹介します。

形式仕様記述とAlloyというツールを知っている人を対象にしています。 もし形式仕様記述やAlloyをご存じない方は、以前私がbuilderscon tokyo 2019で発表したときに使った資料をご覧ください。

Promotionとは

一般にソフトウェアシステムは複数のコンポーネントから構成されます。 システム全体としての状態(以下、システム状態)は各コンポーネントの状態の組み合わせからなります。 たとえどんなに奥深くのどんなに小さなコンポーネントが変化したとしてもそれはシステム状態の変化になります。

Promotionはコンポーネントの中で起こる局所的な変化をシステムレベルの大局的な変化に"昇格"させるテクニックです。 Promotionはシステム状態の変化といったグローバルな操作を、コンポーネントの変化といった「ローカルな操作」と 「ローカルとグローバルの状態の関係を表す述語」に分解して記述します。

分解せずに記述する方法と比べ、関心の分離ができる上、ローカルとグローバルの状態の関係を表す述語は再利用できるのでリファクタが容易になるといったメリットがあります。

一般的にPromotionは、ローカルの事前・事後を表す変数LocalVariablesLocalVariables'、ローカルの操作を表す述語PredLocal、ローカルとグローバルの状態の関係を表す述語PredPromoteを使い、次の形で表現されます。

\exists LocalVariables. \exists LocalVariables'. PredLocal \land PredPromote

これがグローバルな操作と同じ意味になります。

本記事の題材

題材としてGitを扱います。Gitのシステムはいくつかのコンポーネントからなります。 ここでは簡略化してシステムの状態とブランチ、コミット、ファイルの4つの関係を例に挙げます。次の図がその関係の例を示したものです。

f:id:swet-blog:20200214112532p:plain

ブランチ、コミット、ファイル枠内の丸1つ1つは、それぞれブランチ、コミット、ファイルを表します。
1つのブランチは1つの先頭コミットに紐付きます。あるコミットが、異なる複数のブランチに紐付けられることもありえます。 コミットは0以上のファイルに紐付きます。紐付けられたファイルは、差分ファイルではなくコミットに含まれているファイルを意味しています。
システム枠内の四角1つ1つは、Gitシステムが取りうる「状態」を表します(状態であることを区別するため丸ではなく四角で表現しています)。 状態は「どのブランチ・コミットの関係を持つか」、つまり、存在しているブランチそれぞれがどのコミットを指しているかによって決まります。 1つの状態に対し、「ブランチ・コミットの関係」は1つ以上紐付けられます。

今回はこのシステムを題材に「新しいファイルを追加するコミットを行う」を考えてみたいと思います。

システムの事前状態と事後状態

「新しいファイルを追加するコミットを行う」は、「コミットcに紐付いているある1つのブランチbが別のコミットc'に紐付く(今回はコミットの親子関係を考えない)」という状態変化があります。

図で表すとこのようなイメージです。

f:id:swet-blog:20200219113009p:plain

事前のシステムの状態をs、事後のシステムの状態をs'と表現しています。 ブランチbsに紐付けられたブランチです。sでは、ブランチbはコミットcに紐付きます。 「新しいファイルを追加するコミットを行う」を行った結果、s'では、ブランチbはコミットc'に紐付きます。 このとき、c'に紐付けられたファイルは、c'に紐付けられたファイルに新しいファイルを加えたものになります。

共通部分

上の図をAlloyで記述するのに必要な集合、関係は次の通りです。これはPromotionを使う・使わないに関わらず共通です。

sig System {
    bc: Branch -> one Commit
} {
    some bc
}

sig Branch {}

sig Commit {
    files: set File
}

sig File {}

Promotionを使わないストレートな書き方

Promotionを使った書き方を紹介する前にまずは条件をすべてそのまま書き下して書いてみます。

// システムの事前の状態: s
// システムの事後の状態: s'
// 向き先コミットが変わるブランチ: b
// コミットで新しく加わるファイル: newFile
pred commitNewFile(s, s': System, b: Branch, newFile: File) {

      // 【事前条件】追加されるファイルは元のコミットには含まれていない
      newFile not in (b.(s.bc)).files

      // 【事前条件】コミットに含まれるファイルの集合にnewFileを加えたものが新しいコミットのファイルの集合となる
      (b.(s'.bc)).files = (b.(s.bc)).files + newFile

      // s.bcのbの関係を上書き(b以外の関係は変えない)
      s'.bc = s.bc ++ b -> b.(s'.bc)

}

「b以外の関係は変えない」は(Branch - b) <: s'.bc = (Branch - b) <: s.bcとも書けます。

Promotionを使った書き方

先述の通り、Promotionはローカルな操作・ローカルとグローバルの状態の関係を表す述語でグローバルな操作を表現する書き方です。

\exists LocalVariables. \exists LocalVariables'. PredLocal \land PredPromote

Promotionを使って書いてみると次のようになります。

// もともと向いていたコミット: c
// 新しい向き先のコミット: c'
// コミットで新しく加わるファイル: newFile
pred commitNewFileLocal(c, c': Commit, newFile: File) {

    // commitNewFile内から必要なものを持ってくる
    newFile not in c.files
    c'.files = c.files + newFile

}

// システムの事前の状態: s
// システムの事後の状態: s'
// もともと向いていたコミット: c
// 新しい向き先のコミット: c'
// 向き先コミットが変わるブランチ: b
pred promoteCommitToSystem(s, s': System, c, c': Commit, b: Branch) {
    
    // 【事前条件】cはbがもともと向いていたcommitであること
    c = b.(s.bc)

    // システムの状態s.bc内のb->cをb->c'で上書き(b->c以外の関係は変えない)
    s'.bc = s.bc ++ b -> c'

}

// システムの事前の状態: s
// システムの事後の状態: s'
// 向き先コミットが変わるブランチ: b
// コミットで新しく加わるファイル: newFile
pred commitUsingPromotion(s, s': System, b: Branch, newFile: File) {
    some c, c': Commit {
        commitNewFileLocal [c, c', newFile]
        promoteCommitToSystem [s, s', c, c', b]
    }
}

それぞれの述語がどのような役割を担っているのか次の図をもとに説明します。

f:id:swet-blog:20200214112559p:plain

コミットとファイルに関わるローカルな操作(1の矢印)はcommitNewFileLocal で記述しています。

ローカルとグローバルの状態の関係を表す述語(2-a、2-bの線)はpromoteCommitToSystemで記述しています。 c = b.(s.bc)は、sの中のブランチbに対応するコミットとcが同じであることを意味しています(2-aの線)。 s'.bc = s.bc ++ b -> c'は2つのことを意味しています。1つはs'の中のブランチbに対応するコミットとc'が同じであること(2-bの線)、もう1つはb以外のブランチ(グレーのゾーン)が変化しないということです。 また、promoteCommitToSystemcがどのように変化するかは関与しません。 そのためpromoteCommitToSystemは他のローカル操作でも再利用ができます。

システムの事前状態sから事後状態s'に関するグローバルな操作(3の矢印)はcommitUsingPromotionで記述しています。 promoteCommitToSystemcommitNewFileLocalを組み合わせてグローバルな操作を表しています。

同値であることを確認

Promotionを使わない書き方とPromotionを使った書き方は同値なのでしょうか。2つの方法で確かめてみます。

Alloyのアサーションを使って確認

Alloyはアサーション検査ができるのでこの機能を使って確かめてみます。

assert promotion {
    all s, s': System, b: Branch, newFile: File {
        commitNewFile [s, s', b, newFile] <=> commitUsingPromotion [s, s', b, newFile]
    }
}

check promotion

検査をしてみましょう。

Executing "Check promotion"
   Solver=minisatprover(jni) Bitwidth=0 MaxSeq=0 SkolemDepth=1 Symmetry=20
   1032 vars. 60 primary vars. 2209 clauses. 113ms.
   No counterexample found. Assertion may be valid. 14ms.
   Core contains 4 top-level formulas. 12ms.

結果、反例は見つかりませんでした。 アサーションの検査で可能な有限の範囲に限れば、2つの表現は同値であることが確認できました。

同値変形を使って確認

別のアプローチとして同値変形を利用してみましょう。 まず、commitUsingPromotionの中のcommitNewFileLocalpromoteCommitToSystemを定義で置き換えてみます。

pred commitUsingPromotion(s, s': System, b: Branch, newFile: File) {
    some c, c': Commit {
        
        // commitNewFileLocalの定義
        newFile not in c.files
        c'.files = c.files + newFile
        
        // promoteCommitToSystemの定義
        c = b.(s.bc)
        s'.bc = s.bc ++ b -> c'
        
    }
}

限量子someが束縛する変数cc = b.(s.bc)なので、一点規則と呼ばれる次の規則が適用できます。

(\exists x. x = a \land P(x))  \Leftrightarrow  P(a)

すると次のように同値変形できます。

pred commitUsingPromotion(s, s': System, b: Branch, newFile: File) {
    some c': Commit {
        
        // commitNewFileLocalの定義
        newFile not in (b.(s.bc)).files
        c'.files = (b.(s.bc)).files + newFile

        // promoteCommitToSystemの定義
        s'.bc = s.bc ++ b -> c'
        
    }
}

また先述した通り、s'.bc = s.bc ++ b -> c'には「s'の中のブランチbに対応するコミットとc'が同じであること」という意味があります。 つまり、c' = b.(s'.bc)が成り立ちます。限量子someが束縛する変数c'についても一点規則が適用できます。

pred commitUsingPromotion(s, s': System, b: Branch, newFile: File) {
    
        // commitNewFileLocalの定義
        newFile not in (b.(s.bc)).files
        (b.(s'.bc).files = (b.(s.bc)).files + newFile

        // promoteCommitToSystemの定義
        s'.bc = s.bc ++ b -> b.(s'.bc)
        
}

本記事で一番最初に紹介したPromotionを使わない書き方commitNewFileと同じ形になりました。

まとめ

Promotionを使えばグローバルな操作をローカルな操作・ローカルとグローバルの状態の関係を表す述語に分けて書くことができます。 操作がローカルな部分のみを変更する場合はPromotionを検討してみると良いかもしれません。

参考

2019年最後のAndroid/iOS Test Nightを開催しました

SWETグループ、iOS自動テスト領域チームの平田(tarappo)とAndroid自動テスト領域チームの田熊(fgfgtkm)、外山(sumio)でお送りします。

おかげさまで、今年でiOS Test Nightは3周年を終えて4年目に、Android Test Nightは2周年を終えて3年目になりました。 皆様のおかげでTest Nightに登録されている資料は156件になりました。ここには素晴らしい知見が集まっています。

そんなTest Nightですが、12/16(月)に2019年最後のTest NightとしてiOSとAndroidを併せておこなったAndroid/iOS Test Nightを開催しました。 f:id:swet-blog:20191225153841j:plain

今年のTest Nightをすべて振り返りたいところですが、その中でも今年最後のAndroid/iOS Test Nightでの登壇について、SWETメンバーが軽くふりかえってみたいと思います。

Android枠の登壇内容

費用対効果の高いテストコードを書くために考えたこと


f:id:swet-blog:20191225150834j:plain:w380


この発表では、テストコードを書く目的の候補4つを挙げ、そこを出発点にテストを書く範囲を決めていく過程が解説されていました。

巷で良く言われている言説をそのまま適用せず、ご自身のプロジェクトの状況と照らし合わせて範囲を絞り込んでいく過程が丁寧に解説されており、とても共感できる内容でした。

絞り込んだ結果はKaoru Hotateさんのプロジェクトにしか当てはまらないとしても、その考え方は他のプロジェクトでも応用できると思います。これからテストを自動化しようと考えている方におすすめの発表でした。

AWS Device FarmとCircleCIでAndroidのUIテストを自動化しよう


f:id:swet-blog:20191225150609j:plain:w380


AWS Device Farmの機能と、Device Farmを活用したテスト実行をCIと統合する方法ついての紹介でした。 また、テストコードなしでデバイス上で自動テストが実行できるFuzzテスト機能のデモを見せていただきました。

Gradleのpluginがあるおかげで導入の敷居は低く、スモークテストをサッとはじめたいときにとてもいいなと思いました。

既存プロジェクトへCI/CDをどう導入するか?


f:id:swet-blog:20191225150811j:plain:w380


発表の中では、CI/CDの導入をただ単なる技術の導入ではなく、開発チームの文化を変えるきっかけにしている点が印象的でした。

さらに段階的に機能を追加していくうえで、Horie1024さんが実践してきた具体的なプラクティスについても紹介されていました。

SWETチームでもテストやCI/CDの導入を行うことがあるのですが、進め方を考える上で大変勉強になる発表でした。

iOS枠の登壇内容

Xcode 11におけるXCUITestの挙動


f:id:swet-blog:20191225153734j:plain:w380


Xcode 11ではいろいろな出来事が起きますが、その中でもXCUItestの挙動について話してくれました。

私も出会った事象はありましたが、ここまでいろいろな情報はさすがだなと思います。 Xcodeのメジャーアップデート時などにXCUITestにおいて何かしらの問題に出会ったら、Appiumのissueを見に行くのも1つの方法だと思います。

2019年のSwiftモック事情


f:id:swet-blog:20191226100522j:plain:w380


Swiftにおけるモック事情について複数のライブラリについて紹介してくれました。

本発表では、最近リリースされたMockoloについても触れていました。 このライブラリはUber製で、コード生成が高速であることがウリになっています。 SWETでも以前調査はしていたのですが、リリースされたばかりの1.1.0については追加調査をしておらず、本発表で改めて試してみないといけないなと思いました。

DeNAからの登壇内容

DeNAからはMOVのiOSアプリ開発をおこなっているsatoshin21とSWETから平田が登壇しました。

GTXiLibで小さく始めるAccessibility Testing


f:id:swet-blog:20191225153801j:plain:w380


Accessibilityは重要という認識は広まってきてはいますが、優先順位的に下がりがちではあります。 ただAccessibility Inspectorを使って、常にチェックをするのはなかなか高コストです。 そこで、GTXiLibを使ってテストを小さくはじめようという内容です。

最近、この手の話を聞く機会も増えており重要性がさらに高まってきたと思っています。 私はまだ手を出せていませんが、アクセシビリティについてもテストをしていく必要性を感じています。

iOSにおけるパフォーマンス計測


f:id:swet-blog:20191225153821j:plain:w380


Appleはここ数年パフォーマンスに関する機能を提供してきています。 また、パフォーマンス改善に関するドキュメントなども提供しています。

iOSにおいてはどのように改善サイクルを回すと良いのか、またその時に利用できるもgのとして何があるのかについて登壇をしました。

最近、パフォーマンス周りについて力を入れていることもあり今回のような登壇をしました。 お話しきれなかったことも多くありましたので、また何かしらの形でアウトプット出来ればと思います。

ブログ枠のまとめ

ウホーイさんが作成してくれました。 各発表のTwitterでの反応がまとまっており、当日の盛り上がりが伝わってきます。 いつもありがとうございます。

最後に

2019年、皆様のおかげで素晴らしいTest Nightを合計9回も開催することができました。 2020年もTest Nightなどを通してさらなるナレッジを皆様と一緒に世に届けられたらと思います。

最後の最後に、 SWETの仕事に興味を持った方は、SWETメンバーに声をかけていただければと思います。

モブプログラミングワークショップを開催した話

この記事は、モブプログラミング Advent Calendar 2019の20日目の記事です。

SWETグループの長谷川(@nowsprinting)です。

先日、AGILE MONSTERの及部さん(@TAKAKING22)をファシリテーターにお招きし、SWETでモブプログラミング(以下モブプロ)のワークショップを開催しました。

SWETの取り組みの中には、DeNA内の多様なプロダクト開発チームに対してテスト技術を伝える・サポートすることも含まれています。 その活動においてモブプロは有効な手段ではないかと考え、より効果的なセッションを運用するためのノウハウを得たいというのが目的です。

この記事では、ワークショップを通して感じたことなどをまとめて紹介します。

ワークショップ

ワークショップ内容は、及部さんの『Head First モブプログラミング』をカスタマイズした資料でのイントロダクション、モブセッション、発表会、振り返り、『小さなチーム、大きな仕事を実装するモブプログラミング』+αの講義、という構成でした。

+αの部分では、我々SWETが今後モブセッションをファシリテートしていくための知見を話していただけるようリクエストしていましたが、そのアンサーは

  • ファシリテートしない
  • カオスを受け入れる

の2点でした。 言葉だけ見ると突き放すようなインパクトがありますが、実際にワークショップを通して聞くと納得感を得られるものでした。

この2点のアンサーを含め、ワークショップ開催にあたって及部さんが整理されたであろう内容がアドベントカレンダー1日目の記事『モブプログラミングを導入するときに考えていること』に書かれていますので、ご興味ある方はあわせて参照をおすすめします。

モブセッション

モブセッションでは、3〜4人ごとのチーム(モブ)に別れ、それぞれ1台のPCで「自動販売機の機能を実装する」という課題に取り組みました。

f:id:swet-blog:20191220220405j:plain

以下、私のいたモブの話をします。

課題の「自動販売機」に対し、MVP(Minimum Viable Product)だけ定義してあとはTDD(Test Driven Development:テスト駆動開発)でやりましょう! と、一番早くホワイトボードから離れ作業に入りました。 しかし進めるうち、ストーリーでなく機能に目が行ってしまったり(例えば「品切れ」などの考慮をしはじめたり)、コレクションをどこに持つかのコンセンサスが取れていなくてホワイトボードに戻ったりと迷走し、最初のテストが通ったところで前半セッションを終了。

休憩後の後半から、ようやくTDDが回りだしたものの、最後にテストを壊したところでタイムアップ。成果物としては悔いの残る結果に終わりました。

タイピスト(ドライバー)交代にはMobsterを使いましたが、要所要所でコミットをちゃんと残すことに意識が行かず(結局はじめにgit initしただけでノーコミット)、実際の業務でモブプロする場合には別の交代契機を検討したほうが良さそうという学びを得ました。

個人の感想とまとめ

これまでは、モブプロの業務効率についてはあまり意識していませんでした。 しかしワークショップを通じて、通常の分担作業前後のミーティングがモブプロに包括される効果やフロー効率の良さを感じられ、普段からモブプロで業務を進めるという選択も現実的ではないかと思うようになりました。

特に、SWETとしては普段から自動テストの効用として、不具合を早期に発見にすることの価値を伝えていますが、モブプロによる細かい軌道修正は同様の効果がありそうです。

ほかに印象に残ったのは、同じSWETとはいえ普段同じプロジェクトで仕事をしているわけではないので、お互いのテストの書き方の違いを見られる・教え合えるのは新鮮で楽しい体験でした。 Pull Requestレビューでは経緯や細かい点までわざわざ書かないものなので、ペアプロ/モブプロをしないとわからなかったことでしょう。

今後の取り組み

テストなどのノウハウの共有を目的とするモブプロは、ペアプロに誘うより心理的障壁も低く、セッション中の負荷も軽いため、積極的に使っていこうと試行をはじめています。 そのために、(普段のチーム開発ではなく)アドホックに実施するモブプロに最適なテンプレート的なものの整備も進めています。

またモブプロでは、エンジニア経験が少ない人や他の職種の人であっても、まわりがナビゲートすることでタイピストが務まります。

ゲーム開発ではエンジニア以外の様々なロール1と連携して開発を進めていきますが、ところどころでモブプロに参加してもらうことでお互いの考えを知り、暗黙知を共有できるのではないかと考えています。 当初想定していた「テスト技術を伝える」ためだけではなく、モブプロそのものの良さを伝え、社内各所で試してもらえるように活動していきたいです。

以上のような試みに共感していただけた方、興味を持たれた方、一緒に働いてみようと思ってくれた方。 下記職種で採用しておりますので、ぜひご応募ください。お待ちしております。

テスト自動化エンジニア(Unity Test)

テストエンジニア (ゲームアーキテクチャ)

また、その他の分野へのご応募もお待ちしております。 募集職種に関してましては、本ブログサイドバーの「採用情報」の項目をご覧ください。


  1. プロデューサー、ディレクター、プランナー、サウンドディレクター、UIデザイナー、エフェクトデザイナー、グラフィックスプログラマー、QAなど

SWETの2名が執筆に加わった「iOSテスト全書」が一般発売されました

SWETグループ、iOS自動テスト領域チームの平田(tarappo)です。

長いことおまたせしましたが、12/16(月)に「iOSテスト全書」が一般発売されました。 私と同じくSWETの細沼(tobi462)が執筆に加わっています。

f:id:swet-blog:20191216185012j:plain ※12/16(月)に開催されたiOS / Android Test Nightの開始前に写真を撮りました。

本書の一般販売を記念して、本エントリーでは本書全体の概要と見どころについて解説します。 また、併せてすでに発売済みの「iOSアプリ開発自動テストの教科書(以後、教科書本)」との想定読者の違いについても説明します。

本書の企画

本書の企画は、私が相談をして進めさせてもらいました。

昨年(2018年)「Androidテスト全書」の執筆に関わり、周りからの意見もありiOSアプリ開発においても、このようなテストについての本の必要性を強く感じていました。

iOSアプリ開発においては、テスト周りにおいて体系的にまとまった情報はあまりありません。 一歩踏み込んだ情報となると、日本語でのネット情報は少なくその情報自体最新のものなのかわからないといった状況でもありました。

「iOSテスト全書」の企画を立ち上げる前から、私と細沼は「教科書本」の執筆について話が進んでおり執筆がスタートしはじめていました。 この本はその名の通り教科書として最初の一歩として道標になると思ってはいたものの、この本だけでは不足している面もあるだろうとも思っていました。

そこで、「iOSテスト全書」としてさらに一歩の情報まで載せた本を世に出したいと思い、執筆に加わってほしい人たちに声をかけました。

Androidテスト全書が一般発売されたのは2018年11月5日になります。 そこから2週間後、11月19日が執筆者と編集者が揃った「iOSテスト全書」のキックオフの日になります。 そして2019年1月28日にクラウドファンディングがスタートし、このたび一般販売となりました。

思っていたよりも時間がかかってしまいましたが、良いものができたと思います。 ぜひ、手にとっていただければと思います。

本書の概要

本書の目次は次のとおりです。

  • 1章:テスト自動化入門
  • 2章:ユニットテスト(概要)
  • 3章:ユニットテスト(XCTest編)
  • 4章:ユニットテスト(Quick/Nimble編)
  • 5章:BDDによるアプリ開発
  • 6章:UIテスト入門
  • 7章:XCUITestを使ったUIテスト
  • 8章:サードパーティ製ツールとAppium
  • 9章:CI/CD

自動テストに対する話から、ユニットテスト・UIテスト、そしてそれらを実行するCI/CDについてまで触れています。 この中から細沼が2章〜5章(3章共著)、平田が6章と9章を担当しています。

「教科書本」はテストに関するものを幅広く扱い、その名前の通り教科書として最初に活用してもらうことを想定しています。 「iOSテスト全書」では、より一歩進んだところにもいけるよう自動テストやCI/CDについてもう少しふみこんで書いてあります。

このようなiOSアプリ開発におけるテスト周りにフォーカスした本が2019年に2冊も出たということは凄いことだと思っています。 是非ともiOSアプリ開発をおこなっている方は、本書を手にとって頂いて書いてある内容にチャレンジしてみてください。

本書の想定読者

本書の想定読者はPEAKSのページに書いてあるとおり次の方になります。

  • テストについて興味はあるがどうしたらいいかわからない方
  • テストについてもっとよい書き方があるのではないかと悩んでいる方
  • テストにもっと強くなりたい方
  • CI/CDサービスをもっと活用したいと思っている方

iOSアプリ開発に携わる人であれば、なにかしら得られるものがある内容になっています。

各章の見どころについてはそれぞれの執筆者が書いてくださると思っています。 ここでは、我々が執筆した章についての見どころについて次に説明していきたいと思います。

2章〜5章の見どころ(細沼担当)

個人ブログ記事でも書かせていただきましたが、 私が担当した2章、4章、5章はそれぞれ明確なコンセプトをもって執筆をさせていただきました。

2章は『iOSに限定されないユニットテストの知識』をテーマにして、 ユニットテストにおいて一般的に利用できるテクニックを紹介しています。

個人的な見どころは『テストコードの保守性を上げる』のトピックです。 XCTestを使った愚直なテストコードの例からはじめ、 テストコードを徐々にリファクタリングしながら保守性を上げる過程がわかるようになっています。

3章は共著として一部のみを担当しました。 具体的には『テスト実行の単位を管理する方法』として、 これまで利用されてきた『スキーム』を使った方法に加え、 Xcode 11から追加された『テストプラン』の利用方法について記載しています。

このあたりは中々分かりづらい機能ですが、 個人的にわかりやすく解説できているのではと感じます。

4章は『日本語における最強のQuick/Nimbleリソース』をテーマとして執筆しました。

Quick/Nimbleは公式でもドキュメントが整備されているOSSですが、 知識を体系的に積んで学ぶという点においては、個人的に不足を感じていました。

そこで知識を一から積んでいけるように構成を工夫し、 分かりづらい機能についても、できるだけ丁寧な解説を心がけています。

5章は『私が今まで得てきた知恵や経験を、書籍を通して読者に』をテーマにし、 Quick/NimbleとBDD(振舞駆動開発)を利用してサンプルアプリを開発する内容になっています。

2章〜4章で解説してきた静的なテクニックをつなぎ合わせ、 動的なストーリーとして理解を深められる構成になっています。 そういった意味で、2章〜4章で学んできた内容を締めくくる、ユニットテストにおけるまとめ的な章になっています。

6章、9章の見どころ(平田担当)

6章の「UIテスト入門」については、UIテストをおこなっていく上で、次のようなフェーズ単位で気にすべきことをまとめました。

  • 導入前に検討したほうがいいこと
  • 実装中に考慮すべきこと
  • 運用時に注意するべきこと

UIテストは実装して、動いているのを見ると「なんか凄い!」と実装者自身やチームメンバーが感じやすいです。 その結果、闇雲にテストコードを追加し、その結果として負債となるコードが生まれることもあります。

一旦落ち着いて何をするべきかを考えることが重要です。 そこで筆者の経験などを元に、UIテストが実際に現場で活用できるように、それぞれのフェーズで気にすべきことをある程度まとめました。

9章の「CI/CD」では、「CI/CDとはなにか」について厚めに述べています。 本来は、この話だけで1冊になってしまうぐらいの話ですが、次のようなトピックに注力し説明をしています。

  • CIとはなにか?
  • CDとはなにか?
  • どのようなワークフローを組むか

このような内容は、特定のサービスに限らず他でも汎用的に利用できるものです。

しかし、実際に利用した形も見ないとイメージが分かりづらいのも事実です。 そこで、述べたワークフローの例をもとにiOSアプリ開発で人気のCI/CDサービスであるBitriseを用いて説明をしています。

本章の内容により、自社のプロダクトにおいてどのようなワークフローを用意するのが良いかを考える一助になってくれると筆者としては嬉しい限りです。

おわりに

今回は、一般発売がはじまった「iOSテスト全書」について解説させていただきました。 この本が何かしら皆さんにとってプラスとなり、そして今後テストに関する情報がいろいろな媒体を通して世に出てもらえれば筆者としては嬉しい限りです。

また、我々SWETとしては今後「教科書本」や「iOSテスト全書」を社内で活用するよういろいろとおこなっていく予定です。 まだ何かしら具体的な活動はそこまで行えておらず、世へのアウトプット出来ていませんが、今後のアウトプットをお待ちいただければと思います。

そして、これらの活動に興味がある方はぜひとも次から書かれている内容を元に仲間となっていただけると嬉しい限りです。

仲間を募集中

SWETチームでは自動テストやCI/CDを活用する仕事に興味を持った方を募集しています。

以下のエントリフォームから応募できるほか、 私や他のSWETメンバーに声をかけて頂くかたちでも大丈夫です。

是非ともお気軽にご連絡ください!

xcode-installのリグレッションテストをGitHub Actionsで自動化した話

この記事はDeNA Advent Calendar 2019の2日目の記事です。

SWETの加瀬(@Kesin11)です。

SWETグループではいくつかの分野ごとにチームを分けて活動をしており、自分は現在CI/CDチームで主にゲーム事業部向けのJenkinsやCI/CDのサポートをしています。

今回は、xcode-installというgemにpull-reqを送る際に、動作確認のための環境としてGitHub Actionsを活用したことについての記事です。

xcode-installとは

xcode-installはその名の通り、XcodeのインストールやアンインストールをCLIから可能にするxcversionというコマンドを提供するgemです。大半の方はApp StoreやAppleのデベロッパー向けサイトからXcodeをダウンロードして手動でインストールしているでしょうから、そのようなツールがなぜ必要なのかと不思議に思われるかもしれません。

iOS開発におけるCI/CDには、CircleCIやBitriseといったマネージドサービスを利用することが一般的になってきました。ですが、ビルド時間やリポジトリ容量などの問題からそのようなサービスを使いにくいプロダクトも存在します。その場合は、Jenkins + ビルド用macOSの両方を自前で構築、管理することになります。

このビルド用macOSのマシンには、iOSアプリをビルドするための様々なツールを予めセットアップしておく必要があり、Xcodeもその1つです。マシンが1台だけであれば手動で全てのツールをセットアップ可能ですが、ビルドマシン増設を容易にするためSWETではAnsibleを採用してビルドマシンの各種ツールのセットアップを自動化しています。

Ansibleでツールをインストールする際には、homebrewのようなCLIツールが提供されていると簡単です。そこで、Xcodeをインストールするにはxcode-installが必要不可欠となります。

ここからが本題となるのですが、Xcode 11がリリースされてほどなくした今年の10月末にxcode-installで前バージョンであるXcode 10.3をインストールしようとしたところ、なぜか失敗するようになっていました。xcode-installが使えなくなるのは自分たちの業務に大変影響があるため、原因を調査して修正することにしました。

Xcode 10.x系がインストールできない問題(修正済み)

今回、自分が遭遇した問題はXcode 10系でインストールに失敗するというものでした(issue)。ちょうどXcode 11系の正式版がリリースされた時期で、Xcode 11系のインストールは問題がなかったためか、自分以外にissueで報告している人もいないようでした。

ソースコードや過去のpull-reqを追ったところ、ダウンロードしたxipを解凍後のXcode.appの証明書検証に失敗していることが分かりましたので、手元でインストールしたgemに対して後にpull-reqを出したパッチを当てて、Xcode 10.3のインストールが成功するように修正をしました。

xcode-installを修正する難しさ

自分は数年前からxcode-installを使用していますが、過去にも度々動作が不安定になったり、特定の人の環境では失敗するという話を社内で聞くことがありました。不安定な要因として、xcode-installに関係する環境の複雑さがあります

  • macOSのバージョン
  • Rubyのバージョン
  • Fastlaneのバージョン1
  • インストールしようとしているXcodeのバージョン

xcode-installの過去のissuepull-reqを見てもらうと分かるのですが、自分の環境では動いた/動かなかった、という報告が多いです。

今回の自分の修正パッチも、自分の手元のmacではXcode 10.3がインストールできることは確認したものの、 Xcode 10.0 ~ 11.1の間に含まれる他のバージョンで逆にインストールが失敗してしまうのではないか不安がありました。

本来であれば全てのバージョンで動作確認をするべきなのですが、Xcodeのインストールは自分の環境で1回あたり30-40分程度の時間がかかることと、xipをダウンロード後の解凍や検証の処理でCPUパワーが使われるためになかなか辛いものがありました。

GitHub Actionsを利用したリグレッションテスト

手元のmacで実行するのが難しいのであれば、外部のマシンパワーをお借りしたいところです。ちょうどGitHub Actionsがオープンβで個人的にも色々試していた時期で、macOSのVMも使えることが分かっていました。このmacOSのVMを利用してxcode-installの過去のXcodeバージョンのインストール動作確認、すなわちリグレッションテスト(回帰テスト)を行うことを思いつきました。

自分が修正パッチを当てる前は、10系のXcodeのインストールが失敗するという状態でしたので、実際に全てのXcodeのバージョンについて問題なくインストールできることを確認することにしました。確認の手順としては以下になります。

  1. xcversion install {XCODE_VERSION} が終了コード0で完了すること
  2. xcversion installed の結果にインストールしたXcodeのバージョンが表示されること

実際にGitHub Actionsのyamlに書き下したのがこちらです

name: "E2E test"
on: [pull_request]

jobs:
check_install:
  strategy:
    fail-fast: false
    matrix:
      os: [macos-latest]
      xcode: ["10.0", "10.1", "10.2.1", "10.3", "11.0", "11.1", "11.2.1"]

  runs-on: ${{ matrix.os }}
  env:
    # It needs AppleID that has disabled 2FA.
    XCODE_INSTALL_USER: ${{ secrets.XCODE_INSTALL_USER }}
    XCODE_INSTALL_PASSWORD: ${{ secrets.XCODE_INSTALL_PASSWORD }}
  steps:
  # Prepare env
  - uses: actions/checkout@master
  - uses: actions/setup-ruby@master
    with:
      ruby-version: '2.6'

  # Show env
  - name: Show macOS version
    run: sw_vers
  - name: Show ruby version
    run: |
      ruby --version
      bundler --version
  
  # Prepare
  - run: bundle install -j4 --clean --path=vendor
  - run: bundle exec xcversion update
  - name: Show installed versions before install
    run: bundle exec xcversion installed
  - name: Uninstall installed target Xcode version
    run: bundle exec xcversion uninstall ${{ matrix.xcode }} || true

  # Exec
  - run: bundle exec xcversion install ${{ matrix.xcode }}

  # Check
  - name: Show installed versions after install
    run: bundle exec xcversion installed
  - name: Check Xcode installation was successful
    run: bundle exec xcversion installed | grep "${{ matrix.xcode }}"

xcode-installをforkした自分のリポジトリでこのGitHub Actionsを動かし、全てのバージョンで問題なくインストールできることを確認できましたので、自信を持って本家にpull-reqを送ることができました。

GitHub Actionsは他のCIサービス同様に、publicなリポジトリであればオーナー以外のユーザーも実行ログを確認できます。自分は今回pull-reqを出した側でしたが、レビュワーも実際に動いたログからデグレしていないことを確認できたため、安心できたのではないでしょうか。

その後、自分が作成したGitHub Actionsのコードはメンテナの方に興味を持ってもらえたようで、別のpull-reqで本家にマージされました🎉
xcode-installの動作確認が簡単になることで他の方もコントリビュートしやすくなり、今後は安定性も向上するでしょう。

まとめ

今回はxcode-installという特殊なツールの修正事例を通してGitHub Actionsの少し変わった活用方法をご紹介しました。GitHub Actionsでは他のCIサービスと同様にLint、ユニットテスト、デプロイというフローを組み立てるのが一般的だと思いますが、応用次第で今回のように色々と面白いことができるはずです。

最後に、CI/CDチームでは社内におけるCI/CD環境の開発・提供を通じて、開発者が開発に専念できるプロセスを支援しています。
興味を持たれた方は下記の職種で採用をしておりますので、ぜひご応募ください。


  1. Developer Portalにアクセスする処理などにFastlane内部のライブラリが使用されていたりします。ですが、xcode-installのgemspecでFastlaneのバージョンは厳格に管理されていないため、環境によってはとても古いFastlaneが使われてしまうことで問題となることがあります

MOV Android版に対する「コード改善+テスト導入」の取り組みの紹介

こんにちは。SWETの瀬戸(@seto_hi)です。

2019年7月下旬からSWETにジョインし、テストが書きにくい設計を改善して自動テストの導入をサポートする取り組みを行っています。 その取り組みの一環として、MOV Androidアプリの設計の改善を進めてきました。

本記事では、2か月間の中で改善した4つの事例について紹介したいと思います。

MOVのAndroidアプリについて

DeNAでは MOV というタクシーの配車サービスを運営しています。
今回リファクタリングを行ったのは、アプリのユーザーが配車依頼から支払いまでを行う、アプリの中心となる画面です。

画面構成

画面の構造は下記のようになっています。

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常時表示されるActivityと地図Fragmentはシンプルですが、OverlayFragmentの構造がとても複雑な作りとなっています。 OverlayFragmentは20種類以上の状態があり、その状態に従って10種類以上のFragmentが差し替わるようになっています。
それだけでなく、OverlayFragmentの変更を受けてActivityと地図Fragmentの状態も変更されるので、状態の伝搬や管理が複雑になっています。

実装上の問題点と解決策

画面構成の複雑さだけでなく、MOVのユーザーアプリには様々な歴史的経緯があり内部実装は更に複雑になっていました。 特に、ActivityとFragmentは見事なFatActivityとFatFragmentとして育っており、修正コストの増加やテストコードの書きづらさといった課題につながっていました。

原因を分解し、それぞれについて解決策を考えました。

課題1:BaseFragmentと多数のopenメソッド

BaseFragmentに空実装のopenメソッドが大量に定義され、各Fragmentはそのメソッドを必要に応じてoverrideしており見通しが悪くなっていました。
多くのメソッドはイベントをトリガーとして呼ばれるものだったため、ViewModelにイベント用のLiveDataを用意し、各FragmentでobserveすることによりBaseFragmentへの依存を減らしました。

課題2:Activity、地図Fragment、OverlayFragment間の不必要な依存

地図の操作イベントはCallback経由で一旦Activityに集約され、再度地図FragmentやOverlayFragmentに分配されていました。
Activityに処理を集約する必要は全くなかったので、ViewModelのLiveData経由で地図Fragmentに処理をさせるように変更しました。
OverlayFragmentの画面遷移を知らせるイベントもCallback経由で行っていたのですが、NavController.OnDestinationChangedListenerを使い、依存と実装量を減らすことができました。

これらの修正によってActivityがFragmentのインスタンスを持つ必要がなくなり、今後不必要な依存を作ってしまう可能性が減りました。

課題3:APIコールとCallbacksの実装がActivity/Fragmentにべた書きされている

APIコールとCallbacksの実装がActivity/Fragmentに書かれていたため、Activity/Fragmentの行数が増えるだけでなく、Callback内の処理のテストを書くことが難しくなっていました。

これを解消するため、Googleの提唱する Recommended app architecture に従い、設計を変更しました。
ViewModelでAPIコールをし、Coroutine化したことでcallbackも少ない行数で実装ができています。

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ActivityやFragmentが状態を持っていた設計をRecommended app architectureに適合するにあたり、今回は3段階のステップを踏みました。

  1. Repositoryを作成することでViewModelへの移植をしやすくする
  2. Coroutine化でCallback処理の整理をする
  3. 状態をLiveData化し、ViewModelへ移植する

依存を減らしつつ移植することにより、安全な設計変更を行うことができました。

改善後のプロダクトコードとテストコードは以下のようになりました。

サンプルコード

CarRequestRepositoryにはCarRequestを返すgetCarRequest()というメソッドがあります。
(ここでは簡易的な例として、localにデータをキャッシュしないものとします)

class CarRequestRepository(
  private val remoteSource: CarRequestRemoteDataSource
) {
  suspend fun getCarRequest(): CarRequest = 
      remoteSource.getCarRequest()
}

ViewModelではこれを読み込み、LiveDataに保存します。 必要であればActivityやFragmentでLiveDataをObserveして値を使うことができます。

class CarRequestViewModel(
  private val repository: CarRequestRespository
): ViewModel {

  private val _carRequest = MutableLiveData<CarRequest>()
  val carRequest: LiveData<CarRequest> = _carRequest
  
  fun loadCarRequest() {
    viewModelScope.launch {
      _carRequest.value = repository.getCarRequest()
    }
  }
}

テスト

このような設計だとテストも書きやすくなります。
CarRequestViewModelのコンストラクタ引数としてCarRequestRespositoryを渡しているため(コンストラクタインジェクション)、モックオブジェクトに差し替えることが容易になります。

CarRequestViewModel#loadCarRequest呼んだ際、取得結果をobserverで検知できることを確認するテストは以下のようになります。

class CarRequestViewModelTest {
  
  @Test
  fun testLoadCarRequest_success() {
    val mockRepository = mockk<CarRequestRepository>()
    val target = CarRequestViewModel(mockRepository)
    val result = CarRequest()

    // coEveryはsuspend fun向けのevery
    // mockRepository.getCarRequest()が呼ばれたらresultを返すように設定する
    coEvery { mockRepository.getCarRequest() } returns result

    // ViewModelのcarRequestが変更されたことを確認したいのでobserverをmockする
    val mockObserver = spyk<Observer<CarRequest>>()
    target.carRequest.observeForever(mockObserver)
    // テスト対象のメソッドの呼び出し
    target.loadCarRequest()

    // mockObserverがmockRepository.getCarRequest()の結果で呼ばれたことを確認する
    verify(exactly = 1) {
      mockObserver.onChanged(result)
    }
  }
}

課題4:DialogやDrawerMenuのCallback実装もActivity/Fragmentで行っている

こちらも課題3と同様にCallbacksの実装がActivity/Fragmentに書かれていたため、Activity/Fragmentの行数が増えるだけでなく、Callback内の処理のテストを書くことが難しくなっていました。

こちらはEnumを利用することで課題を解決しています。

サンプルコード

まず、メニューの各項目をEnumとして定義します。
MOVのアプリではメニューの選択時に新しいActivityを開くようになっているため、Intentの生成メソッドも定義しました。

enum class DrawerMenuItem(
  @IdRes private val menuId: Int
) {
  ACCOUNT(R.id.menu_account) {
    override fun createIntent(context: Context): Intent =
        AccountActivity.createIntent(context)
    },
...

  abstract fun createIntent(context: Context): Intent
}

取り回しを便利にするため、idを元にEnumの要素を取得できるメソッドを定義します。

  companion object {
    fun valueOf(@IdRes id: Int): DrawerMenuItem =
        values().firstOrNull { it.menuId == id }
            ?: throw IllegalArgumentException()
  }

こういった実装をすることにより、Activity側では以下のように記述するだけで各メニューの選択時の処理ができるようになります。
将来的にメニュー項目が増えても、Activity側に修正を入れる必要はありません。

  navigation.setNavigationItemSelectedListener { menuItem ->
    val intent = DrawerMenuItem.valueOf(menuItem.itemId)
           .createIntent(this)
    startActivity(intent)
    false
  }

ちなみに、このようにEnumを使った手法はActionMenuやActivityResultにも応用できます。

テスト

enum化することによりテストも書きやすくなります。
DrawerMenuItem.ACCOUNT.createIntent のテストは以下のようになります。

  @Test
  fun createIntent_account() {
    val intent = DrawerMenuItem.ACCOUNT.createIntent(context)

    assert(intent.component).isNotNull()
    assert(intent.component!!.className).isEqualTo(AccountActivity::class.java.name)
  }

最後に

上記のような修正によって、アプリの設計は改善の方向に進み、テストコードも書きやすい状態に変化していきました。 このようなアプリの設計改善に限らず、SWETチームでは引き続き自動テストを導入するための取り組みを進めていきます。

このような取り組みに興味を持たれた方は、下記URLからのご連絡をお待ちしております!

募集職種: SWET (Software Engineer in Test) / テスト自動化エンジニア(Android Test)